四日目 5月30日 水曜日


妻に対する自分を引き続き調べる。ここにきて随分と自分本位の行動を反省し、またそれを許容してくれた周りの人々に感謝するようになったきた。ただし懺悔というレベルには至らない。


私はこの時になって当初抱いていた不安は完全に払拭していた。「この一週間は無駄な一週間にはならない」という確信と「もしかしたら怪しい宗教的なもので、以前の自分とはかけ離れた自分に変貌し戻る事ができないのでは?」という懐疑心がなくなったためだ。一方こんどは成果が出てきた為、慢心し、内観に集中できなくなる時間帯がでるようになった。


そんな折の食事時間の放送、31歳にして成功した社長の内観面接の録音テープだった。自分の器をさらに大きくしたいという目的で内観に来ていた。この方は貧しい農家の長男で家業を継がず東京に単身向かい、結果成功を収めた方だが青年時代は警察に頻繁にお世話になるほど荒れた時期があったとのこと。その一節に、

私が18の時、鑑別所に入る事になった。病弱だった母はその数年後に亡くなった。私が心配をかけた為に寿命が縮まったに違いない。私が殺したようなものだ。申し訳ない。。。

と男泣きになきじゃくるのである。私は非常にこの手の懺悔に違和感を感じていた。そこで面接の際に先生に質問をさせて頂いた。


「反省するのは分かる。泣きたくなるようなみじめな自分を発見しようというコンセプトも理解できる。しかし必要以上に自分を責めすぎているように感じます。この社長さんの母君が亡くなられた件も確かに多少は影響があったのかもしれないが、原因は鑑別所に入ったことではなく元々病弱であったわけで、自分を責める為にあえてすべての問題を自分に責任があると無理強いしているようで、その心境が理解できません」


それに対し先生は、

この方は自らその責任を背負いたいと考えている。そこまで自分の枠を広げたいと考えているからなんでしょうね。こういう方は会社で起きる全ての責任を取る度量をもっているはずです。


あなたは頭で考えてばかりですね。心で感じてみてください。

そしてさらに私は伺った。


「実はずっと違和感を感じているのです。懺悔をなぜに皆あそこまでするのか。反省はすることができるようになったのですが、そこまで自分が悪かったとはどうしても思えないのです。」

自分の感情を防御しようとしているから感情がでてこないのではないでしょうか? 悪かったなと発見ができても、論理的に理由付けをしてしまう。


あなたは他人の心によりそうことが苦手なのでは?

「よりそうこと? どういう意味ですか?」

言葉で説明できることではありません

…まったくそのときは「他人の心によりそう」という言葉の意味が理解できなかった。だけど今ならなんとなくワカルきがする。

受応力という言葉があります。 他人から欠点を指摘される・間違いを指摘される、そうするとたいていは嫌だと感じて心を閉ざしてしまうものです。これらを素直に受け入れる力を養ってみてください。


面接の後、しばらく先生との会話を思い出し考えてみた。そういえば、いつの日からか感情を表に出さないように訓練してきた。ポーカーフィエスで常に動じない、これが格好良いと思い鍛錬してきた。そのせいで感情が圧迫され何重にもフタがされてきたのかもしれない。小5の時いじめ(仲間はずれ)を受けたあと、クラスの人気者を観察しては彼等のエッセンスを盗み続けた。その甲斐あって高校時代にはクラスの人気者になることができて超明るい性格の人物になることができたが、そんなある日クラスメートからずばりと「今野は偽善者だよな」との指摘を受けたことがある。その時のことは強烈に記憶に残っており、内観を受ける前からたびたび思い出す数少ない昔の記憶のひとつだった。



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このときになって心は固まっていた。グリーンカードを破棄して日本に留まる決意。今まであまり考えに及んでいなかったが、ずいぶん私の環境で・私のペースで・私の都合でやらせて頂いてきた。私の周りの人たちの事を考えるならば、腰をすえて生活をすることが一番であると思えるようになった。


子供を育てる環境はカルフォルニアの方が良いと考えていた。今でもそう考えている。


ただそれは受身的な環境にかぎってのこと、と気付いた。両親が幸せに暮らしている事が一番。学校環境よりも家庭環境がまず第一なはず。グローバルな視点をもった云々というポイントにおいては、本人が興味あればほっておいても海外に飛び出して行くであろう。


心残りなのは、米国における住環境。通勤・行楽・スポーツ・天候について。


これらについては、カリフォルニアに到底かなうものはない。だが工夫しだいで許容範囲になりそうだ。朝早く起きてラッシュ時を避ける。雨の日には、、、晴耕雨読よろしく悠々自適とまではいかなくとも精神的にはそれぐらいの余裕をもって日々を楽しもう。憂鬱な日本の天候も、常に四季を楽しむようになれる。     



はず。^_^;