名文

今日はゴールデンウィークの初日。日経新聞「春秋」のコーナーにあった文章がすばらしいので全文引用(朝日新聞の「天声人語」に相当するコーナー)

「山笑ふ ふふふふふふと 麓(ふもと)まで」という句を友人に最近教わった。作者は七年前に五十代半ばで死去した絵本画家橋本敦子さん。この句と一緒に、この句のリズムで山を歩いたらさぞ楽しいだろう。そう思って栃木日光に出かけた。
▼知られるように「山笑ふ」は春の季語だ。冬の「山眠る」のころ訪ねた同じ場所がすっかり様相を変え、そこかしこから笑いが響いてくるような気がする。葉を落とさなかったマツからも、森の中で幹の白さがひときわ目立つシラカバからも、淡い赤色のつぼみがほころび始めた県の花ヤシオツツジの群落からも。
▼黄色や茶色や白や。寒さから解放されて顔を出す木々の芽は、少しずつ色合いが違い、それぞれに美しい。それぞれに美しい。ウグイス、雪解け水の激しい流れ、山面をなでる風や陽光、さらに枯れススキまでひっくるめて「山笑ふ」とはなるほど言いえて妙と感心する。混じり合った声は、やはり「ふふふ」と聞こえるような--。
▼男の笑いは、はははが一番いい。ひひひ、ふふふと順に品がなくなっていく。女は逆で、ほほほが一番よろしく、はははが最悪。そんな珍説を聞きおぼえている。山は性別不詳だから「ふふふ」がお似合いだろう。下るにつれて高くなっていく笑いの合唱に合わせ、口に出してみる。ふふふっ。足がふっと軽くなる。

最近になってようやく句や散文を楽しめるようになった。この句のすばらしさはもとよりこの文章は楽しませてくれる。GW初日に相応しい内容だが常に「ふふふ」と気持ちをもちたいものだ。--あ、私の場合は「ははは」か。